今日の出来事などを

心の奥に残った、肝油ドロップのブリキ缶

ブリキの缶は、もうどこにもない。捨てた記憶すら、残っていない。気づいたら、なくなっていた。それでも、形は覚えている。少しくすんだ色、丸い縁、蓋を開けるときの、あの音。あの缶は、特別なものではなかった。でも、確かにそこにあった。変わらず、同じ...
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一粒だけの肝油ドロップと、ブリキ缶

肝油ドロップは、たくさん食べるものではなかった。ブリキの缶の中にある数は決まっていて、一日に許されるのは、いつも一粒。もっと欲しいと思ったことも、きっとあったはずなのに、その気持ちは不思議と強く残っていない。代わりに残っているのは、一粒を大...
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夕方の家の音と、肝油ドロップのブリキ缶

ブリキの缶は、家の中の決まった場所にあった。棚の隅や、引き出しの奥。探さなくても、自然と手が伸びる場所。缶を開けると、家の音が重なって聞こえてくる。台所で何かを煮る音、遠くのテレビ、誰かの足音。それらは特別な音ではないのに、今ではもう、簡単...
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夕方になると鳴った、肝油ドロップのブリキ缶

肝油ドロップを思い出すと、必ず夕方の光が一緒に浮かぶ。窓の外が少しずつ暗くなり始めて、家の中だけがまだ明るい、あの時間。ブリキ製の缶は、指に取るとひんやりしていて、子どもの手には少しだけ重かった。蓋を開けるときの、金属同士が触れる小さな音。...
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一面の雪の白。石炭が燃える赤。それが私の冬の色。

子どものころの冬は、今よりずっと厳しかった気がする。吐く息は白く、廊下は足が痛くなるほど冷えていた。それでも、不思議と心細さはなかった。雪が降ると、町は急におとなしくなる。遠くの音まで吸いこまれて、自分の足音だけが残る。家に戻れば、居間のま...
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白い道を進んだ先には、希望のように赤い炎が揺れている。

学校の帰り道は、朝よりもまぶしかった。踏み固められた雪が光って、目を細めないと前が見えない。手袋の中の指は冷えきっているし、耳もひりひりする。息を吐くたび、白い煙みたいになる。でもぼくは、早く帰りたかった。頭の中には、あの赤い色が浮かんでい...
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雪の日の台所には、あたたかい湯気があった

居間の戸を開けると、まず目に入るのは石炭ストーブの火だった。石炭がゆっくり燃えて、赤い色がゆらゆら揺れている。ときどき小さくはぜる音がして、そのたびに火が少しだけ強くなる。その上には、決まってやかんがのっていた。丸いふたのすき間から、白い湯...
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音のない世界。雪の日の静寂に癒やされる。

朝、ふと目を開けた瞬間に「いつもとちがう」と思った。部屋の中がほんのり白くて、空気まで光っているみたいだった。それに、音がない。近所の車のエンジン音も、遠くの工場の機械の音も聞こえない。耳が変になったのかと思うくらい、シーンとしている。布団...